デジタルネイティブ世代が見た中国  杉浦幹享

四川外国語大学の外教として中級の「日語会話(2)」と「日本文学史」を教えることになり、2023年の8月30日に重慶に降り立ってから、はや3ヶ月ほど経った。島国の日本人として、悠久の歴史を刻んできたユーラシア大陸にいることは感慨深いものである。それどころか中国おたくのわたしとしては、この土地は夢に見た『三国志』の舞台でもあり、孔子をはじめとする「聖人の国」でもある。中国おたくにとっての中国について少々お話させていただきたい。

思えば中学時代に三国志ブームが起こった。当時コーエーが発売した「真・三國無双」シリーズが日本で大ヒットして当時の日本の中学生たちはこのアクションゲームに夢中になった。こうして、わたしと中国との出会いは『三国志』から始まった。ゲームにハマれば原作の『三国志』を知りたくなるもので、わたしは小遣いで吉川英治『三国志』を購入して読みふけった。今にして思えば中学生には難解な語彙や古めかしい言い回しなどが散りばめられていて、当時の私も『広辞苑』や分厚い紙の漢和辞典を引いてことばを調べた。

平成のデジタルネイティブ世代の感覚としては、ゲームやアニメ、漫画などでコンテンツと出会い、書籍を読んで深くハマることは珍しいことではない。それゆえ、わたしは大人やマスコミなどによる余計な先入観などに染まることなく純粋な「おたく趣味」として中国を愛すことができたのだろう。そしてこのわたしと『三国志』との出会いは文学の学びと地続きでつながっていた。

高校生になると国語科には漢文の授業があり、外国語である古典中国語の文法を理解して日本語の語順で古典日本語文として漢文(文言文)を読むのが面白くてわたしはすぐにこの科目が好きになった。現代文の授業では中島敦の小説を読み、なかでもわたしは『弟子』という作品が好きになった。孔子とその門弟である子路の物語である。読み終えたときに思わず涙が頬を伝って、子路の生き方がわが事のように感じられた。中国の歴史や文学に親しんできたわたしにとって中国人の文化や思想があまりにも自然で心地よい。わたしの心をつくっている文化が同じなのである。文学が与えてくれる感動は中島敦の中国を舞台とする小説ではじめて知ったのであるから、わたしと文学との出会いもまた中国からの贈り物だったのかもしれない。

大学では日本文化がどのように形成されてきたのかを知るために日本最古の文献である『古事記』を研究した。これも漢字文献なので中国の文献を読まなければ研究ができない。日本のことを深く知るために中国の文献を読むというのは歴史が育んだ中日両国の「縁」であろう。この縁は大学院で日本思想史学を学びはじめたことでより強く自覚することになった。日本思想は中国から取り入れた先進的な文化と思想をもとに組み立てられているのである。中国の文化はわたしのこころだけでなく、日本人の文化や精神にも影響を与えている。大学院の研究室でともに学んだ中国人留学生たちとは研究会を通じて無二の親友となった。私がいまここ重慶にいるのもそうした「縁」が積み重なっておこった奇跡なのかもしれない。