聞きしに勝る猛暑の地

2022-03-29

この9月より、中国重慶市の四川外国語大学日本語学部に所属が変わった。今学期は、4年生の「古典文法」「新聞と雑誌の読解」、3年生の「日本文学選読」を担当している。同大学で江戸文学、とくに漢詩文と松尾芭蕉との接点について研究されている陳可冉【ちんかぜん】先生(准教授・副学部長)や、長く同学部の外教を勤めている村瀬隆之先生にお世話になってばかりである。中国語が喋れない上に、いろいろ戸惑うことも日々起きているが、これからの中国での教員生活を頑張っていきたいと思う。

重慶市は、北京市、上海市、天津市とともに、中国の4つの直轄市【ちょっかつし】の一つ。北海道と同じぐらいの面積で、人口3000万人を超えるという、中国最大級の都市だ。成田からは春秋航空日本の直行便で5時間程度。中国の内陸盆地に位置し(だいたいお臍の位置に当たる)、武漢、南京と並んで「三大火炉」と呼ばれ、猛烈に暑い都市として有名である。北緯29度で、日本でいえば奄美大島の少し北である。実際、到着した8月31日から一週間ほど、最高気温が38度前後の日が続いた。

もとは四川省であったので料理は激辛のイメージのある四川料理。とくに重慶火鍋・重慶小面(麺)が名物料理である。会食では初めに豪勢に料理を頼んで、置く場所がなくなると、料理の大皿の縁にさらに重ねる。いかにも中国流と感じた。日本で中国人留学生の大学院生に中華料理をごちそうになった時も、同じような頼み方であった。飲み物は重慶ビール。日本のビールよりアルコール度数は低いものの、暑い日にはことのほか喉越しが良くて飲みやすい。料理も辛いものは辛いのだが、それぞれに美味しい。ただ猛暑の中なので、重慶小面を路面のクーラーのない中で食べた時は汗が止まらなかった。

 9月3日の月曜日より新学期の授業が始まる予定であったが、猛暑予想と教室の空調設備の関係で、3日~5日の3日間休講になった。日本では、台風などの気象警報が出ている時の全学休講はよくある。また私が経験した中では、インターネット上の掲示板で爆破予告の書き込みがあったとして、休講措置が取られた大学もあったが、猛暑のための3日間の休講も驚きであった。

四川外国語大学は、重慶市の歌楽山国家森林公園の麓にある。正門にあたる「東門」は山の下にある。授業を行う教学楼(校舎)まで徒歩で行くと、20分近くかなり傾斜のきつい坂道を登らなければならない。私の住んでいる外教宿舎は、その真ん中ほどにある。山の下まで降りて買い物に行くのにも、授業のため山を登るのにも、この暑さの中ではそれだけで大汗をかき、多い時は1日に3回シャワーを浴びるほどだ。運動不足解消にはもってこいであるが、夏場は学生も本当に大変だろう。

これまで私は、高校卒業までを八戸で過ごし、東京で30年半暮らした。東京は江戸の戯作文学の舞台で、どこに行っても見るべきものが多く、飽きることのない町であった。これからの重慶での生活は、不安な点も多いが、それ以上に日本ではできない貴重な経験を楽しみたいと思っている。

四川外国語大学外籍教師二又淳  

*『デーリー東北』2018年9月3日掲載