将軍よ!

2024-12-31

将軍よ!

 

将軍よ!

今時おのれを信じすぎる陳腐漢よ

君の手兵五万はもう去勢されて進む力がない

進軍喇叭が天にひびくからと言つて

君は北叟笑((ほくそえ))んで野戦司令部に納つてゐるのはをかしい!

 

将軍よ!最早兵は君のために疲れた!

君は彼等の意思がやす/\と君の号令に動くと思ふのはまちがひだ

かつては生命がもろく散るのを喜んだ君だつたが

今信念のために倒れたるものの強さに君はおびへてるね

 

血なまぐさい戦場の風が肥満した君の横つ面をなぐる時

将軍よ!そのべん/\たる腹の一角に自分を忘れていいんだ

夕ぐれ砂けぶりを立てて立てつづけに来る情報報告の伝騎に

君は悲しい表情で歯ぎしりしながら参謀達のために机を叩くとか

それもいいだらう、末路といふ一幕物には……

そしてその芝居に君はあまりにもムキで熱心だと

猪のやうな首をかしげて昔を考へるとか

将軍よ!今は本当に君のためにイヤな時だと八字髯をつまむだらう?

君の野心が君自身を痛め

君のあどけない兵にまでのびて行くのは明らかだ?

見給へ、最早君のよき民衆の声を探すにはむづかしい時だ!

まわりすべて君の新しい敵が一ぱい満ちた!

君達よりも光熱に燃え輝やく勇敢な闘志達!

それに応へる君の軍隊の力は?

 

将軍よ!君の他力本念はまだ解けないね

君の背後の黒い影、そいつが心強いマスコツトだつて?

笑ひ事ぢやない、あんなものが……

あれは俗に言ふ「狼の牙」

君の国を忘れた心があいつらを迎へた!誘導したのだ!

あいつらの本心――将軍よ、恐しい君の嘆息だね

砲声殷々だからと言つて死より以上の恐しさはない箸だ

若者達には実際のところ閣下を透して見えるものがある!

 

将軍よ!なるほど昔は一々服従の我々の国だつた

だが今時強権の前に立ちすくむやうな若僧((わかぞう))は一寸珍らしい

君は知つてるだらう?我々の手が鉄の鎖になつたのを……

君は我々に捨てられるのを思ふから却々((なかなか))動けまい

 

国が君を追放する時!と知つたら悲しいだらう

猪首が温泉地方向を指す磁針になつてしまへば簡単でいいが

将軍よ!明日こそ北方に一台の飛行機が消へる時だ!

あの何も知らない君の半減された魂のない兵隊!

君は今身ぶるひをしてゐるね!

無茶な、かつての英雄よ!猪首((いくび))の大将よ!

昔のやうに威風堂々と、戦場で見えたくはないかね――