富士の驟雨

2025-10-22

   富士の驟雨

雨くもがね、どんと迫る瞬間、稲妻がパツとくる

愛鷹も箱根群山もお山も忽ち天となる

ピカツ!ゴロ/\!パラ/\と来る

ザア/\/\つぶてのやうな雨がくる

杉林もバラツクも

この突撃部隊にはかなはない!

水沫か、白刃か、恐しい雨だ

十加農のやうな雷の音

テンポウ以上のこと勇しい天然の清掃!

廠舎では乾場まで兵隊が飛んで行つてぬれてかヘつてくる

傾斜した登山道を下る流れの速さ

陰天凄然たるところから銀の征矢!

それがさつと万物をぬらし、すべてを洗ひつくせば

からりけろんとした西方の光り

雲が行く四方に現はるゝ新興大和絵の山々

青葉の六月の匂ひは生き生きと大空に高い!

お山の雪に反射する色彩の光線

ぽかんと見てれば登山道をひた走る馬車の風

あゝ、今こそ裾野は夕ぐれの静安地

その時だ!夕飯のラツパが天に昇り

われ/\の眼にあの甘つぽい初夏の思ひ出がある時は

どこかでオルゴールのおとのする思ひが浮ぶのは……

富士山暴雨场景.png