風をきく

2024-11-22

風をきく

だまつてゐるから怒つてるとは思はれたくない

さむい寒い冬のまん中に立つてる

花の匂ひの代りに

おのれの首に何がまつはつてる?

自分にもわからない

通り過ぎる彗星のやうな風を耳近くにきいた

好いてる人が十人、それよりも

好きな一人の思慕をまとめるむづかしさ

だから、こゝに私の凍死どころではない

妹のピアノは階下で暖かくなつてゐる

誰も私に声かけてくれない――

大きく歪んでるのはさびしいとも思ふ

春がくるまでは動きたくないとも思ふ

春は初め雪にまみれてくると思ふ

その季節になれば貯水池の辺り、巷へも出やう

手を上げると (こた)へてくれる人は何処にゐるかしら?

あゝ、あの首への思慕は明日の朝の美しい氷柱

それとも犬の背中へのせて遠くへやらうか

だまつてるからよけいに胸にくるさびしさ

反発心を打つものの熱!

さびしいからだまつてる者はあの首を描き出す。